研究会活動

テーマ;学校法人の為替(通貨)オプション取引被害

開催年月日:平成24年7月21日

報告者;小泉哲二弁護士

報告内容(文責:荻野数馬)

報告テーマ;学校法人の為替(通貨)オプション取引被害 一部勝訴 判決報告(説明義務違反・過失相殺8割) 

報告内容

1. 事実の概要

(1) 学校法人である原告は、総資産900億円、運用資産400億円を有し、平成11年、被告(野村証券)と証券取引を開始し、被告の預かり資産はピーク時で195億円に達した。
その取引の大半は、平成13年ころからは「仕組債」による運用であった。 
(2) 平成20年1月、被告勧誘により本件取引(*)の契約が締結された。
平成21年3月、原告は本件契約の解約を申し出た。被告は解約料が11億6270万円になることを伝え、原告は解約料を支払った。
本件基本契約書には、解約料は客観的に合理的かつ公正な方法により算出すると記載されていたが、被告は、本件取引の勧誘の際、解約料の具体的な金額も計算式も示さなかった。

被告が解約料の計算式を示したのは、本件訴訟の過程で、裁判所が提出を促してからである。

(*)名称は「フラット為替取引」だが、その内実は「為替(通貨)オプション取引」。対象為替(通貨)は豪ドル。

(3) 原告は、主位的に、公序良俗違反、適合性原則違反、説明義務違反または詐欺を理由として損害賠償を請求し、予備的に、寄附行為の目的の範囲外の行為または錯誤を理由として不当利得返還を請求した。

2.判決内容

(1) 判決は、説明義務違反について、本件基本契約書に、解約料の具体的算定方法あるいは概算額について予測できる記載はないこと等を理由に認めた。 
(2 )しかし、説明義務違反のうち前記(1)以外の部分や、公序良俗違反、適合性原則違反、錯誤などについては否定した。 
(3) 解約料が客観的に合理的かつ公正な方法により算出されたかが争点となった。
原告は、解約料の計算方法について、事前のボラティリティをインプライドボラティリティで代替し、また、将来時点での為替価格を現在の金利差が満期まで固 定される前提で算出されるフォワード為替で代替するのは、無理あるいは不合理であるとする経済学者の意見書を提出した。
しかし、判決は、意見書の立場では、一般の投資家を対象とするオプション取引は困難になるとして排斥した。 
(4) 過失相殺について、判決は、原告が本件取引により多額の損失を被る可能性を理解していたこと、3名の協議の上で本件取引を決断したこと、本件取引をより慎重に検討できる人材を有していたことを理由に、原告の過失割合を8割とした。

3. 報告者コメントより

(1) 現在の日豪両国の金利差を基にすれば、フォワード為替は必ず円高(豪ドル安)になる。
現在の市場で成立している10年物のフォワード為替価格を、10年後に実際に市場で成立する為替価格と仮定することには何の根拠もない。
したがって、現在の市場におけるオプション価格から計算したインプライドボラティリティと上記フォワード為替とをパラメータとして、10年後時点でのオプ ション価格を算出し、金利を割り引いて現在時点でのオプション価格を算出しても、同様に何の根拠もない。
よって、解約料の計算方法が、客観的に合理的かつ公正な方法とは言えない。
被告主張の解約料11億6270万円を支払ってまで、被告の地位を譲り受けようとする者がいるとは考えられないが、それはすなわち、解約料が不当に高額であることの裏返しである。
裁判所は、このことをまったく理解せず、自らが理解できる説明義務違反という枠組みで判断するに止まった。

(2) 実質は同じであるのに、証券会社が為替(通貨)オプション取引という用語を使わず、フラット為替取引という用語を使うのは、最一小判平成17年7 月14日において、オプションの売り取引が極めてリスクの高い取引類型と指摘されたため、その印象を回避しようとしてのことではないかと考えられる。